ATR 脳情報研究所 所長 川人光男 氏
システム神経科学は,ヒトを対象としたイメージング手法の発展や計算論的研究によって格段の進歩を遂げましたが,因果関係を証明するというハードサイエンスとしてはいまだ揺籃期と言えます.行動と脳活動を観測し,仮説やモデルのある側面をとらえた表現と脳活動が相関があることを示して,脳の情報処理に関して解釈するのがこれまでのシステム神経科学の本流でした.これを,脳と情報通信機器を直接つなぐブレインマシンインタフェース (BMI) の手法,あるいはその主要な技術である脳情報の解読・制御技術を用いて革新しようという潮流があります.計算モデルに基づいた実験により,行動と脳活動の複合したダイナミクスを予測し,データから内部表現を導き出し,それを実験的に制御する新しい方法論について,話します.
上智大学 申鉄龍 氏
内燃機関であるエンジンは,燃料を空気と混合して燃焼させて自動車の動力に変換する装置であるが,制御の立場からその変換効率の向上,変換過程における環境への配慮,および自動車動力源としての動力特性を向上させるためには,その変換過程のモデル化が必要になる.本講演では,まず各気筒内の特性も考慮に入れた詳細のエンジンモデルと,エンジン速度制御のための平均値モデル(Mean-value model)の導出を紹介し,モデルベースの速度制御,トルク制御および気筒間バランシング制御問題について述べる.最後に,SICEエンジン制御ベンチマーク問題も紹介する.
京都大学 引原隆士 氏
近年,ナノテクノロジー技術の発展に伴い,ナノ・マイクロ領域の可視化が進み可視情報の高精度化や,さらにはそれらのマニピュレーションといった次世代の材料や機能を目指した研究が,主として表面物性の分野で進められている.講演者らは,個々の非常に非線形な物理の現象モデルを重視した上で,システム論的に機能性を確立していくための取り組みを,理論的だけでなく実験的に続けている.これらの研究の紹介を通じて,とかく既存の分野や既成の理論的枠組みの延長で安全な仕事をしがちな若い研究者に,人がゼロから提示した仕事を安易に追うのではなく,物理の基礎に乗っ取って境界領域に出て新たなシステム設計につながる分野を構築して行く必要性を例示し,融合領域での活躍を促したい.
JFEスチール 茂森弘靖 氏
鉄鋼製品の品質向上,生産性向上,コスト低減のため,それぞれの製品に応じた最適な製造条件を決定することは極めて重要であり,そのために製造条件と製品品質の関係を表現する精密なモデルが必要である.しかし,鉄鋼製品は多くの工程を経て製造され,非常に複雑な物理現象により製品品質が決まるため,精密なモデルの構築が容易ではない.本講演では,鉄鋼製品の品質設計を事例に,局所回帰による制御対象のモデル化,ならびに,そのモデルを用いたシステムの開発,実装,および保全に対するこれまでの取り組みを紹介し,今後の課題について述べる.
大阪府立大学 石渕久生 氏
現実世界の多くの問題は,競合する複数の目的を同時に考慮する必要がある多目的最 適化問題であり,互いに優劣を判断できない多数のパレート最適解が存在する.進化 型多目的最適化は,多点探索という進化計算の最大の特徴を有効活用することで,多 数のパレート最適解を同時に求めることを目的とした研究分野である.本講演では, まず,パレート優越関係に基づく進化型多目的最適化アルゴリズムの基本構造を解説 する.次に,進化型多目的最適化で大きな注目を集めている多数目的最適化や選好情 報の活用,様々な探索手法とのハイブリッド化などの研究課題を紹介する.最後に, 有望な応用分野である進化型多目的知識獲得における研究方向を紹介する.
法政大学 木村文彦 氏
地球環境の持続可能性に関して生産活動が及ぼす影響は大きいと考えられるが,その全容はよく把握されていない.近年,エネルギーや資源の枯渇に関連して,省資源・省エネルギーを目指すサステナブル生産の研究開発が盛んになってきた.生産活動を孤立した活動として考えるのではなく,地球エネルギー・資源の流れを制御する社会的な仕組みと考えて,資源循環工学として捉えなおすことは興味深い.そのためのエネルギー・資源の流れの可視化の方策や標準化の課題について概観する.
東京大学 伊庭斉志 氏
近年,遺伝的プログラミングは実際的な事例,例えばヒューマノイド・ロボット,金融工学,バイオインフォマティックス,自動作曲などに盛んに応用されている.その中には実際に商品化されたり,現場で利用されているものもある.さらに,遺伝的プログラミングを拡張してより頑強性のあるプログラム進化を構築する試みもなされている.その1つが確率モデルに基づくアプローチである.本講演では,こうした遺伝的プログラミングの最近の話題について説明する.
中央大学 藤澤克樹 氏
半正定値計画問題 (以下 SDP) は現在非常に注目されている数理計画問題であり,21世紀の線形計画問題としての役割を期待されている.しかし,最適化以外の専門分野では SDP の問題記述能力やソルバーの特性,性能などの最新の情報は知られていないことも多い.そこで本講演においては以下の項目について解説を行う.
1. SDP の問題記述&解決能力 (問題の変換や記述方法等)
2. SDP ソルバーの紹介 (各ソルバーの特徴や使い方等)
3. SDP ソルバーの性能 1: 高速&大規模計算 (解くことができる SDP の問題規模と計算時間について)
4. SDP ソルバーの性能 2: 高精度&安定計算 (数値精度の問題と解決法,任意精度計算等)
5. SDP ソルバーの開発における最新技術について
信州大学 千田 有一 氏
制御理論と応用のギャップについては,現代制御理論が発展してきた頃からの古い話題であり,筆者が学生であった20年ほど前でも盛んに話題に上っていた.そして,今なお「実践的な制御理論」が一つの話題である.そもそも,「実践的」と修飾するということは,実践的ではない制御理論が多いという前提に立っている印象であるが,制御理論は実践的ではないのか?筆者は,間違いなく「制御理論は実践的」であると考えている.言うまでもなく,理論は人類の英知であり,制御理論によって多くのことが演繹され,工業の基礎として非常に重要な役割を果たしている.にも関わらず,「実践的」が暗黙の了解にならないのであれば,その原因は認識しておくべきだと考える.本発表では,企業エンジニアとしての筆者の経験を元に,技術者から見た制御理論について,その印象を述べる.さらに,制御理論的アプローチの今後の展開について,筆者の研究例を含めて簡単に述べる.
京都大学 松野文俊 氏
生物の巧みで不思議な動きには驚かされる.講演者は,蛇と蟻を対象として,それらの運動知能を構成論的アプローチで理解し,人工物の制御に応用することができないかと考えている.もし,数式モデルと制御系の構築・シミュレータ開発・その機能を実現する実機開発など工学的な手法で生物の運動知能の理解にアプローチすれば,生物実験では見えなかったものが見えてくることも期待できる.その結果として,生物の理学的研究に何らか影響を与えることができるかもしれない.
蛇は足がないのに推進できる興味深い生物である.蛇は,サイナスリフティング,サイドワインディングなどいくつかの滑走モードを持つことが知られている.その推進メカニズムは,体幹方向の摩擦は小さく体幹と垂直方向には摩擦が大きいという,体幹のもつ摩擦の異方性がキーになっている.環境に合わせて,これらのモードを適応的に切り替えて,巧みな運動を実現している.その運動をモデル化すると,非ホロノミック拘束条件を持つ冗長系として表現される.そのモデルに基づいて,蛇のうねり推進やサイドワインディング推進のメカニズムについて考えてみたい.
また,蟻は単体での能力がそれほど高いとは思えないが,群れとして行動した場合に,採餌行動などの知的な振る舞いが創発される.蟻は環境にフェロモンという化学物質を撒くことによって環境を通じて他個体とコミュニュケーションし,群れとして情報を共有する.化学物質である故に,揮発時間を調節して環境情報の生存時間を制御し,コミュニュケーションを図り,共通目的に対してあたかも協調しているかのような行動が発現される.その行動規範を有限オートマトンで記述し,群れの規模に関する群行動アルゴリズムのスケーラビリティおよび環境や群れ自身の変化に対するロバスト性に関して考えてみたい.
蛇と蟻,一見全く異なるように思えるが,個体同士の拘束と目的の共有およびシステムの冗長性といった観点で見ると共通の土俵で議論できるのではないかと考えている.本講演では,生物の運動知能の理解の構成論的アプローチに関してご紹介できればと考えている.
京都大学 土居伸二 氏
近年,システムバイオロジーを初めとして,生命現象をシステムとしてモデル化し,生命現象の本質に迫ろうとする研究が盛んである.生命をシステムとして捉えること自体は,極めて古くから行われている.古いどころか,「生命とは何か」を考える生命論自体が,本質的にシステム論的研究であったと言える.一方,近年の「複雑系」や「創発」という言葉の流行りが暗示するように,20世紀に偉大な進歩を遂げた物理学や化学など,デカルト以来の要素還元主義的科学も行き詰まりを見せ,生命現象の前には全く歯が立たないように見える.本講演では,生命現象の中で最も成功をおさめた現象論である,電気生理現象の Hodgkin-Huxley の理論・モデルを中心に,生命現象の本質を明らかにする上で,システム・情報科学的 (あるいは人文科学的) 方法論の重要性を訴えたい.
大阪府立大学 本多克宏 氏
ネットワークコミュニティにおけるユーザの意思決定支援の一手法として,ユーザ間の協調による「くちこみ」を仮想的に実装して情報選別を行う協調フィルタリングが活用されている.その過程は嗜好の類似するユーザの群へ対応するコンテンツを推薦することで行われることから,教師なし分類手法のクラスタリングとも関連が深い.本講演では,協調フィルタリングの基本的な考え方を紹介するとともに,講演者らのファジィクラスタリングの改良モデルも含めて,クラスタリングに基づく情報選別モデルについて概説する.
オーガナイザ: 蛯原 義雄 (京都大学), 金子 修 (金沢大学)
慶應義塾大学 足立修一 氏
「モデルベース開発 (MBD)」に代表されるように,細分化された工学(技術)の共通言語としての「モデル」の重要性が認識されてきている.制御理論の大部分は制御対象のモデルに基づいた設計・解析法であり,制御のためのモデリングは重要な研究テーマである.さまざまなモデリング法が開発されているが,制御の分野では「システム同定理論」に対する関心が高まっている.本講演では,まずシステム同定の基礎的な部分について平易に解説する.そして,システム同定の最近の動向について,特に,非線形システム同定の現状について詳しく述べたい.
京都大学 加納学 氏
Shewhart が管理図を提唱して以来,統計的な異常検出法は長い時間をかけて進歩してきた.その間,多変量解析を利用して,変数間の関係の変化を異常として捉える多変量統計的プロセス管理(MSPC)の研究と産業応用が進み,またプロセスの非線形性に対処するために各種非線形モデル構築手法の適用も進められてきた.本講演では,MSPCが生まれた背景やその発展の歴史をいくつかの産業応用事例を交えて振り返り,その数学的基礎を復習した上で,今解決すべき問題について論じる.ナントカ分布を仮定する,到底理解されない複雑なアルゴリムを使う,プロセスの特性変化に対応できない,故にメンテナンスができない.様々な産業界に共通する課題とはこのようなものであり,その解決に向けた最近の試みを紹介する.
オーガナイザ: 小澤 誠一 (神戸大学)
オーガナイザ: 甲斐 健也 (大阪大学), 中村 文一 (奈良先端科学技術大学院大学)
オーガナイザ: 中迫 昇 (近畿大学)
オーガナイザ: 古川 徹生 (九州工業大学)
オーガナイザ: 中迫 昇 (近畿大学)
オーガナイザ: 西山 高史 (パナソニック電工)
オーガナイザ: 林 和則 (京都大学)
オーガナイザ: 喜多 総一郎 (オムロン), 上山 健司 (三洋電機), 北田 宏 (住友金属), 今井 克樹 (シャープ), 西山 高史 (パナソニック電工), 藤本 堅太 (三菱電機), 村上 晃 (神戸製鋼所), 田中 英紀 (川崎重工業)
オーガナイザ: 松野 文俊 (京都大学)
オーガナイザ: 杉江 俊治 (京都大学)
オーガナイザ: 原田 史子 (立命館大学)